【問1】日本全国の全交差点のパフォーマンスが仮に5%向上したら、便益はどの程度か?

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【答1】フェルミ推定(限られた情報や仮定をもとに、未知の数値を論理的に概算する思考法)による解答

 日本全国の交差点で、パフォーマンスが5%向上したら、社会的便益はどの程度になるのか。ここでは、「5%のパフォーマンス向上」を「平均遅れ時間が5%短縮」と置き換え、国土交通省の費用便益分析マニュアルの考え方から、全国マクロの数値からフェルミ推定を行う。結論から言えば、単年便益は約2,095億~3,492億円/年、中央ケースで約2,793億円/年、これを50年・割引率4%で現在価値化すると、

約4.5兆~7.5兆円
中央ケースで約6.0兆円

となりました。

1.考え方

 費用便益分析マニュアルでは、走行時間短縮便益を、交通量・旅行時間・時間価値原単位に基づいて算定し、それを将来にわたって現在価値化して評価する。最新版は令和7年2月版で、2025年8月29日に時間価値原単位などの訂正が公表されている。評価条件の基本は、分析対象期間50年、社会的割引率4%である。

 本来はリンク別・車種別に積み上げるべきだが、全国全交差点の規模感を把握する段階では、全国の時間ロスを母数に置き、そのうち交差点改善で縮減しうる部分を切り出す方法が自然である。今回はその簡約形として整理する。

2.母数

 全国の道路交通について、国土交通省資料では、令和3年の自動車移動時間は約149億人時間、そのうち約61億人時間が渋滞等による時間ロスと整理されている。対象は高速道路・一般道路(都道府県道以上)である。今回はこの61億人時間/年を全国マクロの母数とする。

3.「5%向上」の意味

 ここでいう「交差点パフォーマンスが5%向上」とは、速度が5%上がるという意味ではない。交差点における平均遅れ時間が5%短縮すると定義する。信号制御の最適化、右折処理の改善、飽和度の低減、交差点構造の改良などは、最終的にこの「遅れ時間の縮減」として捉えるのが最も素直である。

 この考え方は、実務に直結しやすい。ETC ANALYZERでは、複数の交差点の総遅れ時間を一括で計測できるため、今回のフェルミ推定も単なる概念論にとどまらず、将来的にはETC2.0プローブデータに基づく交差点の実測値を踏まえた、より現実的な議論へと発展させることができる。

4.時間価値原単位

 円換算には、費用便益分析マニュアルの最新版に基づく訂正後の時間価値原単位を用いる。2025年8月29日に公表された訂正後の値は、乗用車43.74円/分・台、バス386.79円/分・台、小型貨物車52.07円/分・台、普通貨物車101.93円/分・台である。

 さらに、全国マクロ推定の代表単価として、令和7年12月末の自動車保有車両数を用いて車種別に加重平均すると、代表単価は約47.7円/分・台となる。ここでは端数を丸め、約47.7円/分・台を用いる。なお、これは保有台数ベースの簡便値であり、厳密には交通量構成や走行台キロ構成で加重平均する方が望ましい。

5.交差点起因割合

 全国の時間ロス61億人時間/年のすべてが交差点起因ではない。一般道路では交差点が主要因になりやすい一方、高速道路ではサグ部や合流部など非交差点ボトルネックも大きい。そこで、全国値としては保守的に、渋滞等による時間ロスのうち30~50%が交差点に起因すると置く。中央ケースは40%とする。

 すると、交差点起因の時間ロスは次のようになる。

  • 保守ケース:61億人時間 × 30% = 18.3億人時間/年
  • 中央ケース:61億人時間 × 40% = 24.4億人時間/年
  • やや強気ケース:61億人時間 × 50% = 30.5億人時間/年

 ここで、交差点の平均遅れ時間が5%短縮するとすれば、削減される時間ロスは次のとおりである。

  • 保守ケース:0.915億人時間/年
  • 中央ケース:1.22億人時間/年
  • やや強気ケース:1.525億人時間/年

6.円換算

 注意点として、上の母数は人時間であり、時間価値原単位は円/分・台である。このため、円換算には平均乗車人員の仮定が必要になる。ここでは全国マクロの簡便法として、1.25人/台を仮置きし、人時間を台時間へ換算する。

 年間便益 BannualB_{annual}は、次式で表せる。Bannual=61億人時間×α×0.05÷1.25×60×47.7/分・台B_{annual} = 61億人時間 \times \alpha \times 0.05 \div 1.25 \times 60 \times 47.7円/分・台

ここで、α\alphaは交差点起因割合である。

計算結果は次のとおりである。

  • 保守ケース:約2,095億円/年
  • 中央ケース:約2,793億円/年
  • やや強気ケース:約3,492億円/年

7.現在価値化

費用便益分析マニュアルに従い、これを50年・割引率4%で現在価値化する。年金現価係数は約21.48である。

したがって、便益現在価値は次のとおりとなる。

  • 保守ケース:約4.50兆円
  • 中央ケース:約6.00兆円
  • やや強気ケース:約7.50兆円

8.意味するところ

 この推定は、正式なB/C算定ではない。費用側、すなわち信号改良、右折レーン延伸、交差点改良、ITS導入、維持管理費、更新費などは含んでいない。したがって、これは費用便益分析マニュアルの考え方に沿った、全国マクロの便益ポテンシャル推定である。

 それでも意味は大きい。全国の交差点で平均遅れ時間をわずか5%縮減するだけで、単年でも約2,800億円規模、現在価値では約6兆円規模の便益が見込まれる。交差点対策は小さな局所改善の集合に見えても、全国で積み上げれば極めて大きな政策効果を持ちうる。

 さらに重要なのは、この議論が現場実務とつながる点である。全国マクロでは時間ロス総量を使い、個別交差点ではETC ANALYZERで計測した総遅れ時間を直接使う。全国フェルミ推定と現場の実測評価とをつなげられることに、この整理の実務的な価値がある。

9.結論

 日本全国の全交差点で、平均遅れ時間が5%短縮したと仮定すると、全国の渋滞等による時間ロス61億人時間/年を母数にした場合、削減される時間は0.915億~1.525億人時間/年、中央ケースで1.22億人時間/年となる。これを、費用便益分析マニュアルの最新版に基づく時間価値原単位と、最新の保有車両構成から求めた代表単価47.7円/分・台で概算し、さらに50年・4%で現在価値化すると、便益は約4.5兆~7.5兆円、中央ケースで約6.0兆円となる。

 わずか5%の改善でも、全国で見れば便益は極めて大きい。そして今は、ETC2.0プローブデータにより交差点の総遅れ時間を計測し、その縮減量を直接示せる時代に入りつつある。交差点の遅れ時間を測り、改善量を示し、便益へつなぐ。

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